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番外編

漢方薬の原典

漢方薬にご興味がある皆様なら、葛根湯・麻黄湯・小青龍湯、といったお薬の名前はご存知かと思います。これらの処方名を「方剤学」という本で調べてみると、どれも出典は「傷寒論」(しょうかんろん)という書物にある事がわかります。

この「傷寒論」、どれくらい前に書かれた書物だと思われますか?

その歴史は古く、日本の弥生時代にあたる中国の後漢(西暦25〜220)の時代に、張仲景(ちょうちゅうけい)が著した「傷寒雑病論」が原書となるものなのです。


張仲景(画像:wikipedia  http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/e/e7/Zhangzhongjing.jpg)

 

傷寒雑病論
この「傷寒雑病論」は「黄帝内経」(こうていだいけい・著者、成立時期ともに不明)を始め、多くの医学書・薬物書・処方集等を参考にして全16巻から成る書物です。後に、傷寒を扱った部分(主として急性熱性病)と雑病(さまざまな病気、主に慢性病)を扱った部分が分かれるようになりました。尚、この分割時期は不明とされています。

 
その後800年以上の時を経て、1065年(日本の平安時代に相当)に傷寒を扱った部分が「傷寒論」の印刷物として出版、その翌年には雑病を扱った部分に相当する部分が「金匱要略」(きんきようりゃく)と題され、出版されました。


この「金匱要略」に顕されている処方の中では、八味地黄丸(金匱腎気丸)・桂枝茯苓丸・当帰芍薬散などが現在の日本でもよく使われる処方です。「傷寒論」の特徴は病気(傷寒)の変化を前半の3つを陽病、後半の3つを陰病として6つに分類、変化する様子を見ている事です。

太陽病→陽明病→少陽病→太陰病→少陰病→厥陰病(けっちんびょう)


この様に、変化する病気が今現在どの位置に存在しているのかを突き止めることを診断としており、その病態に見合った適応処方の数々を示しているのです。



 



傷寒論(画像:Wikipedia:http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/f/fa/Shanghanlun.jpg)




黄帝内経

次は、これら「傷寒論」と「金匱要略」の元となった「黄帝内経」をご紹介します。


これは、伝説上の人物である黄帝が、その6人の臣下と問答する形式で著されています。
人体の内部環境(解剖・生理・病理等)と外部環境(自然界)の内容を含めた医学理論である「素問」(そもん)と、診断・治療・鍼灸術など治療方法について書かれている「霊枢」(れいすう)と大きく2つに分かれます。


「素問」は特に、中国伝統医学の根本となる「陰陽五行説」(いんようごぎょうせつ)という哲学思想が理論基盤となっています。陰陽五行説とは、季節・臓腑・感情・色・性質・味などを「木・火・土・金・水」(もく・か・ど・こん・すい)に当てはめたり、「陰陽」に分ける考え方です。

五行説とは、一例を挙げてみると「木」は「火」を生み出し、「土」を制御する、という相生・相剋(そうせい・そうこく)関係があり、お互いに影響をし合っていると考えるものです。更に「陰陽」も同じように固定されているものではなく、陰と陽、それぞれが太陽(陽)が昇り、日が暮れて、月(陰)が昇る様に、変化を繰り返しているという考え方が記されています。


「霊枢」は先の述べたとおり、治療方法について著されており、臨床医学に重点がおかれているため古来より針灸術の経典とされ、「針経」(しんぎょう)とも称されました。



黄帝内経(画像:Wikipedia http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/b/b6/The_Su_Wen_of_the_Huangdi_Neijing.djvu/page4-364px-The_Su_Wen_of_the_Huangdi_Neijing.djvu.jpg)




神農本草経
最後に、皇帝とともに漢方の原典を語る上で書かせない人物が神農(しんのう)です。神農も皇帝とともに伝説上の人物であり、「神農本草経(しんのうほんぞうきょう)」という、現在内容を知る事が出来る最古の薬物書に名前が託されています。その姿は体が人で首から上が牛だった、とされています。


神農(画像Wikipedia:http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/67/Shennong2.jpg)



この書物は365種(1年の日数と同じ)の動物・植物・鉱物の薬が収載されており、それらが上品・中品・下品の3つに分類されています。上品とは滋養強壮薬(毒性が無い・長期服用可)、中品とは養性薬(毒性のあるものも無いものも含まれているため服薬に注意が必要)、下品薬とは治療薬(病気の治療薬であり、有毒であるため長期間服用してはいけない)を収載しています。これらの性質は神農自らが効能や毒性を調べ、その際1日に70回も毒に当たっていたと伝わっています。そして驚くべき事に、ここに顕されている植物の薬効は今もなお、生薬を研究する上で大変重要なものなのです。




おわりに

歴史をさかのぼってみると、今から1900年以上前には、すでに生薬を組み合わせて疾病に応用して治療する方法が確立していたことがわかります。人の病気が変化する様子をつぶさに観察し、診断・治療する、という方法は現在も殆ど変わらず、時代を経ても脈々と受け継がれている事に驚きを覚えずにはいられません。


私たちが現在目にする漢方薬の方剤(処方名)や生薬は、こんなに古くの経験を元に作られているのですね。歴史を知ることで、普段口にする漢方薬の奥深さを再認識するきっかけにもなります。今回は漢方の歴史の深淵を一瞬垣間見ただけですが、皆様に漢方薬の魅力を少しでもお伝え出来たのでしたら、嬉しいです。


とても奥深い漢方の世界、皆さんも是非触れてみてはいかがですか?





参考図書
「中医臨床のための方剤学」 神戸中医学研究会編著 東洋学術出版社
「漢方の歴史」 小曽戸洋著 大修館書店
「漢方のルーツ まんが中国医学の歴史」 原作・監修/山本徳子 画/藤原りょうじ 医道の日本社
「毒薬は口に苦し-中国の文人と不老不死-」 川原秀城著 大修館書店
「近代漢方総論」 遠田裕政著 医道の日本社

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