薬食同源
漢方薬局には実に様々なお客様がいらっしゃいます。私たちは、漢方的知識、経験をもとに、個々の体がどんな状態であるか見定め、個人の体調、体質、生活習慣、そして、季節や気候などの影響も考え、様々なアドバイスをいたします。その中でとても大事なことが、毎日の積み重ねである【食】についてです。今回のテーマは【食養生】です。中医学講師である劉 桂平先生のお話をもとに、体を健康にする食について考えてみたいと思います。
中医学は、主に内臓のバランスを整えることで病気を治療します。身体全体のバランスを考えながら、ひとりひとりそれぞれの体質的特徴や個体差を重視します。中医学ではトータルで人間を診るため、病気の原因に対しては主に飲食の失調や精神ストレス、過労、運動不足、天候と環境からの影響などからその不調を分析します。その中には、症状の緩和である対症療法と、根本からの治療である原因療法があります。薬での治療は主に対症療法で、体を根本的に変えていく食養生は原因療法に属しています。また、医食同源という言葉もあるように、漢方薬の治療効果を十分に発揮するためには、バランスのよい食事を摂ることは軽視できません。ただし、いくら身体に良い物でも過剰摂取すると害になります。
それではご参考のため、下記の内容をご注意されるようお勧めします。
以下のものを摂りすぎると身体に害をもたらします!
●甘い物 例:チョコレート、甘いお菓子など
(性質が滞るので、体内の湿邪*を生じる)
●油ものや肉類 例:揚げ物、てんぷら、ポテトチップス、各種肉類など
(消化吸収しにくいので、体内に湿熱を生じる)
●香辛料の多い物 例:唐辛子、カレーライスなど
(刺激性が強く熱性があるので、体内に熱を生じる)
●洋食・加工食品 例:ファーストフード(ハンバーガーなど)、ケーキなど
(消化吸収しにくいので、体内に湿熱を生じる)
●牛乳・卵・(大豆)・魚介類
(高タンパクのため消化吸収しにくく、体内に湿熱を生じる)
●生もの、冷たい物、冷凍のもの 例:刺身、アイスクリームなど
(胃腸を冷やし、消化吸収機能を低下し、体内に湿邪を生じる)
●コーヒー
(興奮性が強いので、体内に熱を生じる)
●アルコール類 例:ビール、日本酒、焼酎、ワインなど
(湿熱を生じる)
●タバコ
(熱毒を生じる)
上記のものは高糖質、高タンパク、油っこい、冷たい物などのため、消化吸収しにくいので、中医学で言う脾胃(消化器系)の機能を低下させ、体内に“湿熱病邪*(しつねつびょうじゃ)”を生じさせます。この“湿熱病邪”は経絡*(けいらく)を通じて、前身のあちこちへ運ばれ、さまざまな病気を生じる原因になりえます。例えば、内臓のバランスを崩すと内臓病になり、皮膚の働きを破壊すると皮膚病になり、血液に影響し皮膚の赤みやかゆみなどが現れます。頭部に影響すると眩暈や頭痛になり、足腰に影響すると腰痛やひざの痛みや、疲れやすくなったり、足が弱くなったりするなど、あらゆる病気を発生させる可能性があります。もちろん、漢方薬の吸収率も低下させるので、なるべく過剰摂取しないようにしてください。
“湿邪”とは、体内に入った消化吸収しきれない飲み物や食べ物などが溜まり、身体に悪いものに変化したものを指します。中医学ではこの身体に悪い物を“湿邪”と言います。
“湿熱病邪”とは、湿邪が体内に長く溜まると、一部分は熱に変わり、湿邪と混じり合って、湿熱病邪になる。この病邪はしつこくて身体に悪い影響は湿邪よりもひどい。漢方薬にはこの湿熱を除くことにより病気を治療する処方が割合多いです。
*“経絡”とは臓腑や肢体などがお互い連絡して情報伝達しているネットワークの事を指します。
<健康になるために、日常の基本として次の事をお勧めします>
●自分の身体と自然を愛する気持ちで、煮物や和食を中心に「腹八分目」
(消化吸収しやすく、脾胃の気をたすける)
●季節の旬の野菜、特に葉っぱの野菜を、火を通してたっぷり食べる
例:チンゲン菜、小松菜、白菜、キャベツなど
●色々な種類でバランスのよい食事を摂るのが大事
(脾胃の気をたすける)
●適度に汗をかく
(老廃物を排泄し、新陳代謝を良くし、身体の生気が強くなる)
●やさしい日光を適切に浴びる
(朝日や木漏れ日など)(骨や気血の流れが良くなる)
●生活のリズムを守る。特に睡眠や食事のリズムなど
(自然治癒力が高まる)
●水や緑茶、紅茶
(消化吸収を良くし、身体の毒を消す)
食事の比率は穀類4~5割:野菜4割:動物性のもの1~2割。
穀類とは米や小麦、大豆、稗(ひえ)、粟(あわ)、黍(きび)など。野菜とはキャベツ、チンゲン菜、キャベツ、白菜、トマト、キュウリなどで、特に葉物野菜を多く取り入れます。動物性のものとは、肉や魚介類、卵、牛乳、乳製品などを指します。上記のことをできる範囲で積極的に実行すると、脾胃の消化吸収が高まります。正気(自然治癒力)を強め、漢方の吸収率を高めることで治療効果が向上し、体全体がよくなります。
中医学では脾胃(消化器)という内臓を非常に重視し、体のエネルギーの源で「後天の本」といわれ、脾胃の働きが良いか悪いかが健康に多大な影響を与えると考えています。
*“後天の本”とは、脾胃(消化器系全般)の働きを強調する意味で、脾胃が飲食物を消化吸収して、その栄養物質を全身に運び、人間の総エネルギー源となり、体の健康維持に対してもっとも重要な役割を果たしていることを指します。
*和食とは、米や小麦、大豆などの穀類・野菜・海藻などを中心とした食事を指します。特に日本の気候風土に合った和食を食することは、日本で健康にくらすためにたいへん適していると言えます。
*植物食を中心にすれば、胃腸の負担が軽くなるので、胃腸が強くなります。胃腸が強くなれば、血液が綺麗になり、内臓も強くなります。内臓が強くなれば元気になります。元気なれば免疫力が高まるので病気になりにくいのです。
食養生はあくまでも日本人の体質に合った、現代の食生活(過食偏食)にあった、そして気候・環境(高温多湿)にあったものでなければなりません。ですから、日本の伝統的な和食、すなわち旬の野菜を中心にして、穀類4、野菜4、動物性食品2の割合にした、腹八分目が原則です。
腹八分目で満足するにはまず200ccほどの味噌汁や野菜スープなどを先に摂り、胃を水分で満たし、その後ゆっくり時間をかけ、しっかり噛んで食事をすることです。そのようにすれば少ない食事からも満腹感をちゃんと味わうことができ、かつ、腹八分目の目安である、胃がもたれな、体が重くならない、眠くならなることも無くなります。
食事と一緒に汁ものを摂るのには注意が必要です。しっかり噛まず流し込んでしまい、胃腸を弱らせる原因になります。汁ものは先に摂ることが大事です。その後、便通が良くなれば、食養生がうまくいっている証です。それこそが自分にあった食養生と言え、自分に合った食養生であれば続けることも容易だと思います。
腹八分目の食養生がしっかりしていれば、胃腸が元気になり、内臓も精神も安定し、脳も活性化します。そうなればたとえ病気になっても、薬は良く効きますし、病状も酷くならず、早く治るようになります。食養生とは文字通り「食をもって生命、命を養う方法」です。逆に言えば、食を軽視し、粗末にすることはいのちを軽視し、粗末にすることになるのです。
※ 本文は日本中医薬研究会 中医学講師・名古屋市立大学薬学部客員教授 劉 桂平先生の「中医学の食養生の基本」、及び同氏の 【週刊朝日MOOK 漢方養生術】 “「食養生」と未病対策で、セルフメディケーションの実践を”から一部抜粋・改編いたしました。
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