おりものの生理的な量とは?
おりものは、卵巣から分泌される女性ホルモンの影響を受けており初潮~10代の思春期から少しずつ増えてきますがまだ安定はしていません。20~30代の成熟期になると女性ホルモンの分泌が増えるとともにおりものの分泌も増え、月経周期によって量や質の変化がはっきりしてきます。40代以降は女性ホルモンの分泌が徐々に減りはじめ、おりものの量も少なくなってきます。閉経後は女性ホルモンの分泌がなくなり、おりものも減少し膣内が乾燥するため自浄作用も低下します。
おりものと月経周期の関係
おりものの量は月経直後から排卵期までの間に増えていき、卵胞ホルモンがもっとも高まる排卵期におりものの量も増え、卵の白身のような透明な白色で糸状で伸びが非常によくなります。高温期になり黄体ホルモンが分泌される時期は粘度があり量はさほど多くなく、月経直前になると乳白色のおりものが分泌します。
排卵期にみられる帯下の変化は非常に重要で、膣内を潤し精子が通過しやすくなること、卵胞が正常に発育し排卵がスムーズであること、また女性生殖器官の発育と生長の表れでもあります。古典では “帯下、精之余也”と言われています。つまりおりものが少ないことは、月経血の量や質とも相関するので月経不順や閉経、卵胞発育不良や無排卵などを早い段階で推測することができます。
中医学からみる原因とその対策
おりものと月経はどちらも五臓のうちの「腎」の気と精、奇経八脈の任脈帯脈(生殖機能に関する脈)の影響を多く受けています。おりものが少ない原因は大きく分けると2つあります。
一つは先天的に虚弱で腎気(生命エネルギー)が盛んでなく、天癸(女性ホルモン)が衰弱して不足、更には過度な性生活や中絶、流産、胎児の発育停止、或いは大病や長患いの後に肝腎陰精(生殖にかかわる潤い栄養)が欠乏し、天癸も衰弱し不足します。
もう一つは長期にわたる感情・心理的要因と関係があります。女性は本来毎月月経があることなどから陰血(体の潤い栄養)が不足しやすく、加えて仕事や家事、子育て、介護のストレス、受験勉強、或いは長期にわたって落ち込んだりイライラした状態が続くと、心肝気鬱化火(体のエネルギーが鬱滞し、熱が発生)し、天癸を消耗し、おりものの減少に繋がっていきます。現在はこの感情、心理的要因が主流となっています。
更にこの2,30年の生殖補助医療の進歩に伴い、排卵誘発剤の使用や、卵胞を穿刺し採卵する手術などにより、卵巣組織にダメージを与えてしまい、これにより天癸が不足、衰弱減少し、おりものの減少を引き起こすケースも見られます。
中医学で考えるおりもの不足のタイプは、主に① 肝腎不足(主証) ②心肝鬱火 ③脾胃虚弱となります
肝腎不足タイプ
最も代表的なタイプで、先天的に肝腎(生命力・生殖能力)が弱い、あるいは長期にわたっての病気や過労、ストレスが肝腎陰精を消耗したことによって至った状態です。おりものが少ないということに加え、疲れやすい、不眠、心煩、口渇などの症状がみられます。
中医学では「肝」と「腎」は密接に関係しており、特に「陰(体を潤し栄養する性質をもつ物質)」が不足した状態を「肝腎陰虚」といいます。肝は「血」を蔵し、目や筋、情緒、内分泌、自律神経に関わり、
腎は「精(生殖能力の源)」を蔵し、成長・発育・生殖・骨・耳などに関係します。
この両者の陰が不足することで、全身に様々な「熱」や「枯渇」傾向が現れます。
これは特に女性の更年期や慢性的な体調不良、ストレス過多の方に多く見られる症状で、身体の内部環境のバランスが崩れることで多彩な症状が現れます。
◆主な症状
以下のような特徴的な症状が見られます
1.身体的な症状
2. 精神・感情面の症状
◆肝腎陰虚を引き起こす原因
◆肝腎陰虚の改善方法
1. 食事療法(滋補肝腎の食材)
肝腎陰虚を改善するためには、滋養滋陰作用のある食材を積極的に取り入れることが重要です。
※辛味・揚げ物・アルコール・刺激物など「陽熱」を助長する食品は控えめに。
2. 生活習慣の調整
おすすめ漢方
六味地黄丸・杞菊地黄丸・瀉火補腎丸・加減亀鹿二仙膠・二至丸



心肝鬱火(しんかんうっか)タイプ
中医学において「心肝鬱火(しんかんうっか)」とは、情志(感情)の不調により、肝の疏泄機能が滞り、気が鬱結して内熱化し、火となって心を乱した状態を指します。
「肝」は感情(特に怒りや抑うつ)と関わり、気の巡りを調整します。「心」は神(精神活動)を蔵し、情緒・睡眠・思考を司ります。この二つの臓腑が火熱の影響を受けることで、心身にさまざまな症状を引き起こします。具体的にはイライラ、頭痛、煩躁、不眠、口が苦い、便秘などの熱症状がみられます。
◆主な症状
1. 精神・感情面の症状
2.身体的症状
◆心肝鬱火の原因
◆心肝鬱火の改善方法
1. 食事療法(清熱徐煩の食材)
心肝の火を鎮め、気の巡りをよくするための食材や生活の工夫が重要です。
※刺激物(唐辛子、アルコール、コーヒー)や揚げ物、脂っこい食事は控えましょう。
2.生活習慣・セルフケア
おすすめ漢方
加味逍遥散・逍遥顆粒・柴胡加竜骨牡蛎湯・黄連解毒湯・天王補心丹など


脾胃虚弱タイプ
中医学において、「脾胃虚弱(ひいきょじゃく)」は、脾と胃の機能が弱まり、消化吸収の働きが低下した状態を指します。その結果、身体全体のエネルギー不足や症状が生じる状態です。
「脾」は後天の本(生まれた後の生命活動の源)であり、飲食物から気血津液を生成・運搬する役割があります。「胃」は受け取った飲食物を消化・腐熟する役割を担います。脾胃が虚すと、気血の生成が不足し、全身にさまざまな虚弱症状があらわれます。具体的には疲れやすい、食が細い、軟便、お腹が張りやすいなどの症状がみられます。
◆脾胃虚弱の主な症状
1. 身体的症状
2. 精神・感情面の症状
◆脾胃虚弱の原因
◆脾胃虚弱の改善方法
1. 食事療法(補脾健胃の食材)
消化しやすく、脾と胃の働きを補い、気血の生成を促す食材を日常に取り入れましょう。
※冷たい飲食物、生もの、脂っこい物、刺激物、甘すぎる物は避けましょう。
2. 生活習慣の工夫
おすすめ漢方
補中丸・健脾散・健胃顆粒・理中湯



まとめ
以上、おりものと体の関係、中医学的な原因と対策についてご紹介しました。以下にまとめます。
1. 肝腎陰虚(かんじんいんきょ)
肝腎陰虚は、陰の不足により、目や耳、生殖機能だけでなく精神状態にまで影響します。特に更年期以降の多くの女性が気づかずにこの状態に陥り、不調を「年齢のせい」と見過ごしがちですが、しっかりと養生すれば改善が十分可能です。滋養する漢方や食事、生活習慣の改善を組み合わせて、体の「潤い栄養」を取り戻しましょう。
2. 心肝鬱火(しんかんうっか)
現代社会のストレス環境下で多く見られる心身のバランス失調の状態です。特に「怒り」「不眠」「イライラ」「不安」などの症状を伴う場合はこの証に該当する可能性があります。感情の乱れは気の巡りを滞らせ、火(熱)を生じさせやすくします。中医学では、火熱を治め気や血の巡りを整えることが根本的な対策です。
3. 脾胃虚弱(ひいきょじゃく)
脾と胃の働きが弱まり、慢性的な疲労感や胃腸の不調(下痢、腹満、食欲不振)、冷え、栄養不足といった症状を引き起こします。特に現代のストレスや飲食の乱れにより、多くみられるタイプです。体質に合わせた丁寧な補養や調整を行うことで、根本からの改善が可能です。無理をせず、日常の習慣を見直しながら、脾胃を養う食事と漢方対策を取り入れることが大切です。
肝腎陰虚・心肝鬱火・脾胃虚弱はいずれも、女性のライフステージや心身の変化と深く関係しています。
「なんとなく調子が悪い」「年齢のせいだと思っていたけど…」という不調も、体質に合わせた養生や漢方で改善できる可能性があります。
おりものの減少は、閉経、更年期症状、不妊症、陰部の炎症や痒み、性機能の低下などと関係する病症のひとつです。あなたに今必要なのは、どのタイプのケアでしょうか?不調を我慢せず、まずはご自身の体質を知ることから始めてみてください。中医学の知恵が、あなたの心と体にやさしく寄り添います。おりもののお悩み、どうぞイスクラ薬局までお気軽にご相談くださいませ♡
参考文献:『実用中医婦科学』
おりもの,帯下,