ところが、「卵胞が十分に育っていない時」や「子宮内膜のプロゲステロン感受性が低下している時」、「排卵前のLH分泌が低下している時」などは、黄体からのホルモンが適切に反応せず(つまり黄体機能不全の状態)、妊娠へ向けての体の準備ができなくなります。
黄体ホルモン (プロゲステロン)とは?
女性の体には、黄体ホルモン(プロゲステロン)と卵胞ホルモン(エストロゲン)が大きく作用しています。この2つの女性ホルモンのうち黄体ホルモンは、成熟した卵が排卵した後の残された卵胞が黄体化して分泌されるホルモンです。排卵が起こると、卵胞は黄体に変化し、黄体ホルモンを分泌します。黄体ホルモンは、卵胞ホルモンにより増殖された子宮内膜に、分泌物を蓄えて、さらにフカフカに仕上げ、排卵された卵子が受精して着床しやすい状態にします。黄体ホルモンは分泌量が増化して、出産まで子宮内膜をそのまま保存します。
妊娠しなかった場合は、子宮内膜がはがれて月経となり、黄体ホルモンの分泌は2週間で減少します。こうしてまた排卵が起こり、ホルモンの分泌が繰り返されます。
乳房も、卵胞ホルモンによって発達した組織が、黄体ホルモンの作用で、いっそう発達し、充実します。
黄体機能不全とは?
黄体機能不全とは独立した病態ではなく、子宮内膜症・高プロラクチン血症・黄体化未破裂卵胞症候などを併発することが多いといわれています。基本的に排卵はみられますが、月経不順・着床障害・流産を生じる可能性があります。黄体機能不全は大きく①卵巣性と②内膜性に分けられます。
①黄体から分泌されるホルモン(主にプロゲステロン)の産生量の不足している状態
(黄体自体がLHに対する反応が悪いか、またはLHが低い)
=「卵巣黄体機能不全」
・黄体期の短縮:高温期の持続が10or12日未満、日数は確定してない
・低温期・高温期の差が小さい:温度差0.3℃以下
②ホルモンの産生量は足りているが、内膜において効果・反応性の低下している状態
=「子宮内膜機能不全」
・子宮内膜の分泌期の変化がスムーズでない:内膜が薄い→着床障害、流産を起こしやすい
黄体機能不全の原因
<西洋医学的な見方>
1.卵胞発育不良
2.プロラクチン(PRL)が高い:卵胞の発育、排卵の抑制
3.子宮内膜症:高PRLであること多い、卵巣内に内膜症があると排卵障害になりやすい
4.医原性:排卵誘発剤クロミッドによる内膜増殖抑制
5.流産、掻爬:内膜の損傷
(④,⑤は内膜に対するダメージ)
<中医学的な見方>
中医学には黄体機能不全という言葉はありませんが、近年の研究において「腎虚」が主たる原因であり特に「腎陽虚」が多く見られます。
さらに黄体機能不全になりやすい他の臓腑の失調は「脾虚」や「肝鬱」があります。
1. 先天の腎虚
2. 風寒、寒湿の侵入
3. 老化、早衰
4. 過度の性交、流産、大病・久病
5. 心身過労、精気損傷⇒「腎陽虚」・「腎陰虚」
6. 飲食失調⇒「脾虚」
7. 情緒失調・睡眠失調⇒「肝鬱」
中医学的に考えると「腎陽虚」があると脾虚や肝鬱を起こしやすくなります。
*それぞれの証は独立したのもではなく互いに影響を及ぼしていると考えます。
黄体機能不全によく見られる症状とオススメ漢方薬
症状によって主に以下のタイプに分類されます。
・「腎陽虚」:冷え性、腰だるい、月経が遅れがち
・「腎陰虚」:暑がり、のぼせやすい、月経が早まる
・「気血不足」:疲れやすい、冷え性、貧血
・「心肝火旺」:不眠、イライラ、乳房張痛、PRLが高い
・「痰湿阻滞」:胃腸虚弱、肥満、おりもの多い、舌苔厚い
・「気滞血瘀(お)」:経血塊、月経痛、頭痛、肩こり
タイプに応じて、参茸補血丸、杞菊地黄丸、紫煌珠、婦宝当帰膠、その他加味逍遥散、冠元顆粒、キュウ帰調血飲第一加減等をお勧めしています。
病院では同じ病名がついても各々体質や自覚症状が異なることがありますし、また病院で治療を受けているかどうかによっても使う漢方薬が違うことがあります。
日常生活のなかに中医学知識を
黄体機能不全の方の多くは冷えが大敵です。これからの季節、冷房が強くなってきますのでなるべく冷えない格好をして、生野菜や生もの・氷の入った冷たい飲み物などはなるべく避けるようにしましょう。また、卵胞が十分に育つように女性ホルモン様作用のある豆類や、卵の栄養は卵からということで血作用のある葉酸が含まれている魚卵などをとるようにしましょう。ストレスも大きく影響してきますので、没頭できる趣味を探して、ハーブティーなどでリラックスできるようになるとよいですよ。
赤ちゃんを授かる為には、西洋学的治療、漢方治療、気功や針治療など様々なアプローチ方法があります。でも一番大事なことは母体があっての子宮・卵巣だということです。冷えの強い人は、冷えを治すことにより温かい子宮卵巣を作り本来の自分のホルモンバランスを保つこと、胃腸が弱く体重の少ない人には、胃腸を強くし体重を増やし子宮卵巣に栄養をつけること、肥満気味の人は、体重を減らし余計な脂肪・水分を取り除くことなど、日常生活でちょっと気をつければ妊娠しやすい母体に近づくことは可能です。
今まで見落としてきた十分な睡眠と栄養バランスのとれた食事が、意外と妊娠への近道なのかもしれませんね。
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