ギザギザの基礎体温
Iさんは胃が弱く食後はよく胃痛を起こし、乳腺にしこりがありプロラクチン値が高め、疲れると動悸、いつも手足が冷たく寒がり、そして寝汗をかくという体質でした。さらに基礎体温は低温期と高温期の温度差がはっきりとしないばかりでなくほとんど36.7℃以上という高めの体温が続いていて、その波形はのこぎり歯状のギザギザと不安定なものでした。
通常基礎体温での低温期(卵胞期)は36.3℃前後、高温期(黄体期)は36.7℃前後そしてこれらの温度差は0.3~0.5℃、グラフの波形はなだらであることが理想的です。卵胞が成長する時期の基礎体温は36.1~36.4℃が適温ですがそれ以上になると卵胞の質が下がってしまい、さらにプロラクチン値が高いと卵胞の成長、排卵、着床全てが抑制されてしまいます。「プロラクチン」とは授乳時に分泌されるホルモンですが、強いストレスによってイライラしたり不眠が続くと上昇することがあります。このような状態の時基礎体温の波形はのこぎり歯状を示します。
基礎体温が高いのに冷える?
基礎体温が高めなら身体は冷えることなく温かいと思われますが、逆にIさんは寒がりでいつも冷えを感じています。なんだか矛盾しているようにみえますね。このことを「陰と陽」で考えてみましょう。
Iさんはもともと冷え症で胃腸虚弱、流産を繰り返していたということから身体活動にとって必要なエネルギーすなわち「陽」が足りない「陽虚」体質です。ところが不妊治療で用いる排卵誘発剤は卵巣に対して強い刺激を与え多くの卵胞を成長させますので、卵胞の元になる栄養分すなわち「陰」が消耗され「陰虚」体質にさせてしまいます。「陰虚」が続くとだんだんと熱が生じてきます(陰虚熱)。ここに高温を維持させる黄体ホルモン剤が加わるとさらに身体に熱がこもりこれらの熱によって基礎体温が高くなったと考えられます。よって陽虚体質で陰虚熱をもっている状態です。
この陰虚熱は残念ながら身体を心地よく温めたり活動エネルギーにはならず、火照り、寝汗、不眠やイライラ感を引き起こす原因になります。質の良い卵子を得るためにはこもった熱を冷ましながら、卵胞を育てるための重要な要素である「陰」をしっかりと補わなければなりません。しかしIさんのように胃腸が弱いと補陰薬の消化吸収がうまくいかないことがありますので注意が必要です。
胃腸の働きを助けプロラクチンを下げ卵胞を育てる必要があります。まずは、炒麦芽、加味逍遥散、婦宝当帰膠、双料杞菊顆粒、二至丹、冠元顆粒をおすすめし様子をみていきました。
2ヶ月の服用で徐々に高低差が!
服用開始から2カ月後
まだギザギザしていて不安定ですが高低差がみえてきました!
さらに2カ月後
37℃を超えることはなくなり低温期は36.5℃前後に落ち着いてきました。
次第に基礎体温が二相になってきたので、高温期を維持させ、更なる体力をつけるのに参馬補腎丸を加えました。
9ヶ月を過ぎると、、
体調に応じて漢方薬を加減しながら9ヶ月目、排卵誘発剤によって採卵できた11個のうち、なんと6個が受精しました。かつて同様な方法でもこれだけ受精卵ができたのは初めてだったそうです。
やっと陽性反応が!
治療上ホルモン剤を使うと体調が崩れ不正出血がみられるなどホルモンバランスも乱れがちになるため漢方薬で体調を整えつつ、移植3回目にしてようやく妊娠陽性反応がでました。漢方薬を服用し始めて1年8カ月目のことです。
Pregnancy Test / http://snow.ipernity.com
妊娠7週目には切迫流産という危機的状況もありましたが何とか乗り越え、妊娠12週目以降は漢方薬も減らし順調に経過、今は産前のための薬を服用しつつ出産の時を待つばかりです。
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