季節は夏。夏、と言えば暑いです。

春から徐々に気温や湿度が上がり、盛夏に向けて日々の最高気温を塗り替えてゆきます。中医学では、このような気候変化が私達の身体の適応力を超えた場合、季節の気候そのものが疾病を引き起こす一因である「邪気」(じゃき)に変化すると考えます。特に、暑い季節の邪気を「暑邪」(しょじゃ)と呼びます。暑邪による身体の変化としては、体が熱くなる・多汗・口渇・脱力感などが現れます。まさに、夏の私達の身体の変化ですね。

タイトルなし
タイトルなし / vasofoto.com



湿邪


更にこの暑邪の特徴の一つとして、湿気の邪気である「湿邪」(しつじゃ)を伴いやすいと考えられており、夏は「暑邪」と「湿邪」に悩まされるシーズンに突入するのです。湿邪による身体の変化は手足の倦怠感・吐き気・下痢など。特に普段から雨の日に不調を感じやすい方などはこれらの不調に思い当たるのではないでしょうか。

あじさい@大宮第二公園
あじさい@大宮第二公園 / Norio.NAKAYAMA



水無月の厄祓い


話は変わり、私がこの記事を書いているのは6月。季節は梅雨の真っ只中。梅雨は言わずもがな、湿邪対策が必要なシーズンです。湿邪に悩まされているのに、「水無月」と言う旧暦の名が似合わない月だな、と感じる日々です。

さて、水無月の晦日である30日は、ちょうど1年が半分を終える頃。多くの人が12月の大晦日に年越し行事を意識するように、実は水無月にも半年に一度の厄を払う行事があります。それが日本各地の神社で執り行われる、「夏越の祓(なごしのはらえ)」という行事です。旧暦の水無月の最終日は、2015年度を例に新暦に直すと、8月15日(旧暦6月29日)に相当します。8月の中旬、お盆過ぎは例年通りだと夏も終わりが見えてくる時期でもあり、この「夏越の祓」の行事は、旧暦で生活していた人々にとって夏を過ぎ超える、という意味もあるようです。

 

行事食の 『水無月』


夏越しの祓に執り行われる行事は様々ありますが、私たちの生活に深く根ざしているものは、やはり食べ物ですね。その行事食こそ、この時期に出回る「水無月」という和菓子。白い外郎(ういろう)の三角形の生地に小豆が乗っているお菓子です。白い外郎が氷、小豆が厄払いに見立てられている、ともされています。和菓子の「水無月」の謂われは、この日に小麦餅を食べる風習があったことや、江戸時代に宮中で蒸餅が納められていたことなどにあるようですが、現在の形になったのは昭和に入ってからのようです。

ここで、「水無月」に乗っている小豆に注目してみたいと思います。
【性味】:甘酸/平
【効能】:利水・滲湿・清熱・解毒
有効成分として水溶性のビタミンB1が豊富に含まれ、このビタミンは糖質からエネルギーを産生する時に必要となります。



画像Wikipedia


夏に小豆で邪気払い


では、前半にお話しした夏の邪気である「暑邪」と「湿邪」、そして小豆の性質について併せて考えてみましょう。小豆の性味は平、寒熱に偏らない性質ですが、暑邪による熱を冷まし(清熱)、湿邪を取り除く(利水・滲湿)ことができ、更にエネルギー産生を効率化する事が期待できます。このように考えてみますと、小豆を夏を越えるための行事、夏越の祓の伝統的なお菓子に使用しているというのも、なんだか納得できますね。

中医学のルーツも、自然界の中での人々の身体の変化を観察して得られたものですので、このように古くから風習として食べる物にすんなりあてはまるのですね。改めて、時代が積み重ねてきた学問の重みを感じます。夏は体がだるくて毎年憂鬱になる、そんな方は夏のおやつに甘さ控えめの粒あんを是非加えてみてください。

参考図書
「事典 和菓子の世界」中山圭子著 岩波書店